国税当局は、社会的な注目や関心の高い事案に対して的確に調査を実施していくことは極めて重要との考えから、各種情報の収集・分析に努め、重点的に取り組んでいる。最近マスコミに取り上げられている、払い過ぎた借金の利息を取り戻す「過払い金返還請求ビジネス」に係る調査もその一つ。国税庁はこのほど、過払い金返還請求ビジネスに係る実地調査によって、697件から総額79億円の申告漏れを把握したと発表した。
それによると、今年6月までの1年間(2008事務年度)の所得税調査において、過払い金返還請求ビジネスを行う弁護士や認定司法書士について804件を実地調査したところ、その86.7%にあたる697件から総額79億円にのぼる申告漏れ所得金額を把握し、28億円の税額(加算税を含む)を追徴した。うち、81件は、報酬を故意に簿外処理するなど悪質な脱税と認定し、重加算税を賦課している。
実地調査1件平均の申告漏れ所得金額は984万円で、所得税全体の実地調査(特別・一般)の1件平均の申告漏れ所得金額887万円を若干上回っており、1件あたり平均の追徴税額は343万円で、所得税全体の実地調査1件平均の追徴税額167万円の2.1倍となる。申告漏れの手口は、過払い金は通常、出入金の透明性を保つために事務所の口座に振り込むが、依頼者の個人口座などを振込先に指定して、金の流れを隠すものが多いという。
事例では、調査により、弁護士Aから提示を受けた帳簿や収入に係る領収書等の原始記録を検討したところ、不当利得返還請求事件に関する多額の収入計上漏れの事実が把握されたものがある。Aに説明を求めたところ、消費者金融業者からAの銀行口座を通じて依頼者に支払われる返還金から、Aが報酬として差し引いている金額及び依頼者から受領する着手金の総額1億3500万円をすべて収入から申告除外していたことが判明した。