先般、国税庁が公表した2008年度租税滞納状況によると、年度末滞納残高は10年連続して減少したが、同庁では通常の滞納整理では処理が進展しない事案については、国が原告となり訴訟を提起する「原告訴訟」と財産の隠匿者に対する「滞納処分免脱罪」を積極的に活用して滞納整理を進めている。2008年度は186件の原告訴訟を提起しており、215件が終結し、その大部分で勝訴している。
原告訴訟の内訳は、「名義変更・詐害行為取消」が9件、「差押債権取立」が25件、「供託金還付請求権取立」が21件、債権届出など「その他」が131件。例えば、消費税等約2200万円を滞納していた土木工事業A社は、多額の負債を抱えていたことから、本店事務所の土地・建物を代表者に譲渡し、譲渡代金約6000万円は代表者からの借入金と相殺された。その直後にA社は解散し、新たに設立された法人がA社の事業を引き継いだ。
その結果、A社は無財産・無収入となり、滞納徴収が難しくなったが、国は、代表者への不動産譲渡が、A社とその代表者が債権者である国を害することを知りながら行った詐害行為であるとして、不動産譲渡を取り消し、登記をA社に戻すよう詐害行為取消訴訟を提起。その後、裁判によって国の請求が認められたため、不動産の名義をA社に戻した上で、これを差し押さえたところ、A社は、滞納国税の全額を自主的に納付している。
また、滞納処分免脱罪は、国税徴収法違反事件として検察庁に告発し、財産を隠すなど悪質な滞納者を最高3年の懲役もしくは50万円以下の罰金で処罰するもの。バブル期に名を馳せた「桃源社」が同罪で告発された例があるが、あまり多くはなかった。しかし、2006年度には4件(人員8人)と大幅に増え、2007年度が3件(同10人)、2008年度は過去最高件数の5件(人員8人)が告発されている。
例を挙げれば、消費税等約5700万円を滞納していた人材派遣業B社は、国税局から売掛金の差押さえを受けた直後、滞納処分の執行を免れる目的で、事業を継続しているにもかかわらず解散登記を行った。さらに、架空の法人にその事業を譲渡したように装い、取引先に対して架空法人名義の請求書を送付して売掛金(合計約8400万円)を振り込ませるなどの方法で財産を隠していたことから、滞納処分免脱罪で検察庁に告発されている。