1999年の商法改正において導入された株式交換は、企業組織再編の一手法だが、株式交換では通常、金銭の移動を伴わず、単に所有している株券のみが交換されるに過ぎないことから、キャッシュの流出がないという点にメリットがある。さらに法人税法では、一定の要件を満たす株式交換については、売却益課税を行わないことになっており、株主の譲渡益課税を繰り延べる特例が設けられている。
税務では基本的に株式交換は「所有している株式を売却し、現金を受け取り、その金銭で新たな株式を購入する」行為との考え方をとっている。しかし、実際には金銭を伴わない株式交換に応じた株主にまで課税するのは担税力の面で問題があり、また、株式交換制度そのものの発展を阻害するとの観点から、一定の要件を満たす株式交換については、将来の譲渡時まで課税を繰り延べているわけだ。
一方、TOB(敵対的買収)の際、買収会社が被買収会社の株主に対し、被買収会社の株式を提供してもらう対価として、買収会社の株式を与えることがある。被買収会社の株式と買収会社の株式を「交換」するのだが、このような「株式と株式の交換」は、上記の譲渡益課税を繰り延べる特例の対象にはならないので注意したい。特例の対象となるのは、あくまでも株主総会の特別決議を経て行われる「会社法上の株式交換」である。
会社法上の株式交換は、まさに“会社の意思”により決定されるものであり、株主総会の特別決議で承認されてしまえば、個人の意思に関係なく、たとえその個人が株式交換に反対していたとしても、株式交換が実行される。一方、「株式と株式の交換」の場合は、それに応じるかどうかは、株主の個人的な意思次第となる。会社法上の「株式交換」と、「株式と株式の交換」は一見すると似ているが、実は別物だということを知っておきたい。