物理的なオフィスを持たずにネット上にのみ存在する“ネット企業”が誕生するという興味深い予測は、三菱総研の主席研究員・唯野安志氏のコラムである。本格的なブロードバンド社会の到来によって、ショッピングを中心にEC(エレクトリックコマース)が拡大するが、ブロードバンドによる変化の本命は企業の業務遂行形態そのものの変革であって、それが“ネット企業”の誕生だというのだ。
氏は、ブロードバンドを前提にすれば、現在でも企業のオフィス業務の大部分は、会議も含めてネット上に移行することが可能な状況にあると指摘。問題は、“ネット企業”の組織運営のノウハウがどこにもないこと。物理的なオフィスを持たないことによるコスト上のメリットは明らかだが、物理的空間を共有しない組織が長期的に企業体として機能していくか、機能させるマネジメントがありうるかの検証の必要性を提起している。
いずれにしても、経営としてのガバナンスから、社員の勤務評定のあり方まで従来とはまったく異なるマネジメントが必要になる。その意味で、新しい企業が“ネット企業”として起業され、試行錯誤して成功することで、既存企業のネット化が促進されるというシナリオが自然だと唯野氏は考えている。
一方、物理的空間を共有することは人間の本性に根ざしたものであり、“ネット企業”は成功しないとの結論に至る可能性もある。しかし、“ネット企業”が成功すれば、その存在は今後20年のうちに都市部のオフィス需要、その他のビジネス関連需要の動向に影響を及ぼすほど存在になるだろうという。以上が唯野氏のコラムの概要だが、ちょっと試したくなる方も多いのではないだろうか。