3月に公表された役員給与に関する法人税基本通達の一部改正のなかで注目されるのは、退職給与の損金算入を規定した分掌変更に伴う基準に「その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く」という実質基準が加えられたことだ。これまでは、形式的基準を満たせば退職給与とされていたものが、退職後も裏で経営に睨みをきかす立場にあれば否認されることになる。
これまで、役員が分掌変更した場合の退職給与は、税法上、1)常勤役員が非常勤役員になったこと、2)取締役が監査役にとなったこと、3)分掌変更等の後の報酬が激減(おおむね50%以上の減少)したことなど、分掌変更によって役員としての地位や職務の内容が激変して、実質的に退職したと同様の事情にある場合に支給したものは、退職金として取り扱うことができることとされていた。
ところが、通達改正では、3)の基準が「分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと」と改められた。この背景にあるのは、2006年10月25日の大阪高裁判決だが、そこでは、要件を形式的に満たしていれば退職給与とされるわけでなく、あくまでも実態をみて判断すべきだと判示したのだ。
今後は表向きは役員を降りた場合でも、経営に大きな影響を与えうる状況にあれば退職給与とは認められないことになる。大阪高裁のケースでは、業績不振により代表取締役や取締役を辞任したものの、その会社の役員にとどまり、取引先等との実質的対応など重要な業務を担当していたことから、退職したと同様の事情にあるものとは認められないと判断された。こうした例は少なくないだけに、今後は十分に留意する必要がある。