企業の金余りが、配当性向の引上げなど利益配分に向かう可能性がある。しかし、株主への配当還元は、配当の二重課税問題があり、一部の低課税所得者層以外は配当重視のインセンティブが乏しい。「貯蓄から投資へ」という政府の方針を実現するのならば、高所得者に対する配当課税控除を軽減することが投資促進への有力策になる、と主張するのは、第一生命経済研究所の熊野英生氏のレポートである。
レポートによると、無借金企業の増加を背景に企業の金余りが拡大しているが、この資金は、敵対的買収への防衛策などのため、一般株主に報酬還元を手厚くしていく蓋然性が高い。また、企業が配当性向を引き上げることで、株主からの評価を引き上げるチャンスがあると考える。ここにきて企業が配当性向を引き上げようとする姿勢には、中長期的に成長拡大を目指す意思が込められているとの理解を示す。
こうした動きに対する大きな障害となるのが、企業が法人税を支払った後の税引き後利益に対し、株主に配当として支払ったときに、再び所得課税が行われるという配当の二重課税問題である。ただし、部分的ながらその解消を図ろうという税制の配慮がある。2004年1月~2008年3月までの間は、いったん10%の源泉徴収を行った配当所得について、確定申告すれば年末調整で、所得税・住民税の課税控除を受けることができる。
具体的には、上場株式の配当を受けた株主に対して、所得税10%(+住民税2.8%)の課税控除が行われ、所得税10%の課税層である330万円以下の人であれば、少なくとも所得税10%が相殺されて配当所得は免税になる。しかし、課税所得が330万円超の人々は、配当重視のインセンティブが乏しいといえる。株式投資を行っている人が高額所得者に偏っていることを勘案すると、現状の個人投資家は積極的には優遇されてはいない。
そこで、レポートは、政府の「貯蓄から投資へ」という方針をもっと刺激的に実現するならば、特に、高額所得者に対する二重課税問題が残されていることを念頭において、現状、1000万円超5%になっている配当控除の課税軽減率を高めて、配当課税が免除されるような控除制度を設けるべきだと提案する。そのような優遇税制が企業行動を変化させ、個人投資家の株式投資意欲を強く刺激する絶好のタイミングだとみているのだ。
レポートの全文は↓
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/kuma/pdf/k_0505e.pdf