税率も納税方法も違う預貯金や株式、投資信託、債権などをひとまとめにして、このなかでの損益を通算できるというのが金融所得の一体課税。政府税制調査会で本格的な検討が始まっているが、そのなかで、会社が倒産して紙くずとなった株式の損失まで税制上手当するかどうかが検討されている。いくらなんでも、そこまでする必要があるのだろうか。
株式を発行している会社が倒産して、その株式が無価値に、紙くずになってしまったケースを「資産滅失」という。その年に稼いだ所得を物の購入に回すか、貯蓄するか、あるいは株を購入するかという所得の処分は自由である。だから、基本的な所得税の考え方では、所得の処分によって買った物や株式などが滅失してしまっても、それは所得を計算する際に考慮するべきものではないというのが原則である。
他方、貯蓄から投資へという政策的な要請があることから、リスク資産への投資から生じた損失を何らかのかたちで手当てすべきだという議論をしてきたわけで、株式が紙くずになった損失を税制上手当てするかどうかが検討項目となるのだ。賛成派は、紙くず損失も譲渡損失と同様に、株式投資から生じた損失であり、株式譲渡損失と同様に損益通算の対象とすべきではないかという意見である。
反対意見は、上場株式の場合は紙くずになる前に市場で売却するチャンスがあるのだから、市場で売却できれば事実上倒産しても売却損となる。だから、売らないでそのまま持っていて無価値化してしまう滅失まで待たなくても投資家は対処できるはずだから、特例的に認める必要はないとの考え方だ。
反対意見のほうが説得力に勝るように思うが、非上場株式の場合は、売買市場もないわけだし、中小企業への大きな投資リスクを軽減するうえからも認めてもいいような気がする。その場合、譲渡という行為がなく、調書が出るわけでもないのだから、適正な課税を確保するための何らかの仕組みが必要になる。その第一候補はやはり納税者番号制度であろうか。