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働きすぎの改善に「労働時間貯蓄制度」導入の提案

経営関連情報 - 2008年06月23日

 厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、日本人の年間労働時間は製造業平均でおよそ2000時間、うち約1割が残業だ。サービス残業も少なからずある。有給休暇の消化率も低い。厚労省の就労条件総合調査(2005年)によると、平均付与日数18.0日に対して取得日数は8.4日と、消化率は5割に満たない。こうした状況の改善を図る1つの手立てとして「労働時間貯蓄制度」の導入を提案するのは日本経済研究センターのレポートだ。

 同制度は欧州の一部で普及しており、例えばドイツの制度は、各労働者の勤務時間を銀行口座のような労働時間口座で記録・管理し、1日8時間を超える時間外労働を主として休暇で保証するもの。時間外労働時間は複数年にわたって通算でき、一生涯を期間とする場合もある。フレックスタイム制度との大きな違いは、通算期間が1ヵ月ではなく1年を超える長期にわたることが多く、必ずしもコアタイムを設ける必要がないことだ。

 日本で労働時間貯蓄制度を導入した場合の実効性は、企業内でこの制度がどれだけ徹底されるかによる。有給休暇消化率の低さやサービス残業の多さが物語るように、今のところ個人の権利意識は低い。レポートは、時間口座の残高に上限基準を設け、超過した場合は企業に高い値段で買い取らせれば、実効性を担保できるとみる。労働時間口座に十分な貯蓄があれば、育児期だけ変則的な働き方をするといった活用法があるのも魅力だ。

 懸念されるのは企業の反対だ。1人あたりの労働時間が減るため、企業は人員増を求められる。未消化の有給休暇は1人あたり年72時間。これは全労働時間の3.6%に相当するが、この率だけ人員を増やした場合、06年度の法人企業統計年報を基に計算すると、人件費増で税引前利益が11%減る。そこでレポートは、例えば、現在約40%の実効法人税率を30%まで引き下げるなど、企業に受入余地が出てくる別な形での補償を提案している。

 レポートがむしろ強調するのは、1人あたり労働時間を短くすることによって時間当たりの労働生産性が高まる効果だ。残業時間分は必ず休むというルールにすれば、各人は所定内の時間中に成果を出すことが求められる。最後にレポートは、政府も、労働基準法に労働時間貯蓄制度の導入を可能にする容認規定を設けたり、同制度を導入した企業を税制面で優遇するなど、制度の積極的な普及を目指すことを提案している。