経 営 関 連 情 報

2003年05月26日-002
緊張感あるコミュニケーションが企業力を創る

 コスト削減や雇用の流動化を背景にパートや派遣労働者の活用などが進み、企業への忠誠心や企業理念をすべての従業員が共有しているという想定は、今後ますます現実味を失う。こうした企業内コミュニケーションのあり方の変化は、企業統治の低下をもたらし、結果として品質管理上の問題などを生じさせることになる。このような危機を乗り越えるためには、社内のコミュニケーションを緊張感あるものに変えていくことが重要だ、とは三菱総合研究所の上田啓行氏の指摘である。

 従業員の同一性が失われた組織においては、暗黙のルールによる緩やかな管理は通用しない。組織内の情報共有をきめ細かく行うとともに、重要な事柄は文章化するなど、暗黙知を形式知に転換し、記録として残していくことで緊張感を持たせることが必要だという。その一例が、多くの企業で導入されているISO9000シリーズである。同シリーズでは、日々の業務での意思決定などの流れを書類として保存・管理することが義務付けられている。

 一方で、せっかく導入したこの仕組みが形骸化し、緊張感が薄れてきている組織も多いのではないか。この仕組みを組織の発展につなげていくためには、転換された形式知をさらに共通理解として日常化、すなわち暗黙知に変えていくことが必要だ。それは、与えられた仕組みを、自らの身の丈に合わせて作り替え、結果として独自性のある仕組みを構築することだという。

 世界に名だたるトヨタの「カンバン方式」は、紆余曲折を経てトヨタオリジナルとして完成したコミュニケーションの仕組みだ。緊張感あるコミュニケーションが、与えられたお仕着せの仕組みではなく、組織の文化として根付いたときに、初めて企業力は創られるものだ、というのが上田氏の主張である。考えてみれば、この指摘は、企業だけでなく、国を初め自治体・私的集まりなどあらゆる組織に当てはまる。緊張感の薄れた組織は衰退する方向にあるということだろう。

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