1950年に第三者によるチェックという脱税けん制効果を狙い導入された公示制度が2006年度税制改正でいよいよ廃止される公算が強くなった。所得税の公示制度、いわゆる長者番付は、近年プライバシー侵害などの問題から廃止・見直しを求める声が根強かった。だが、所得税や相続税とともに法人税の公示制度が廃止されることには、国税関係者を中心に疑問の声が少なくない。
政府税制調査会は、所得税の公示制度を廃止する理由について、所期の目的外に利用されている面があることや犯罪、嫌がらせの誘発原因となっているなど、種々の指摘に加えて、個人情報保護の施行を契機に、国の行政機関が保有する情報について一層適正な取扱いが求められていることなどの諸事情を踏まえれば、廃止すべきだと提言している。
確かに、所得税や相続税の公示制度は弊害が多い。高額納税者名簿は市販されているから誰でも入手可能である。そのため、長者番付に載ったことによって、団体・企業からの寄付の強要や営業攻勢、勧誘にさらされるなどの指摘があった。だが、廃止を決めた最大の契機は2005年4月の個人情報保護法の施行であろう。プライバシー保護に対する国民意識の高まりが政府に廃止を決断させたといえる。
所得税や相続税などさして公共性のない個人情報を廃止することに反対する理由はないが、法人税に関しては、廃止のデメリットが大きいとの声がある。ある国税関係者は「廃止によって企業の法人税所得逃れを助長するおそれがある」と危惧する。これまで、税務調査の現場では、公示された納税額を見た社員や取引先などからの情報提供が脱税摘発のきっかけとなったことも少なくないからだ。
とはいえ、いったん法案に盛り込まれたものは成立することは間違いがない。問題なのは、ほとんど議論がないまま決まってしまうことだ。法人税の公示制度が理由がわからないまま廃止されることは“愚行”であろう。このごろ、国民経済や生活に大きな影響が及ぶ税制改正に、ほとんど議論なく突然浮上して成立してしまうものが少なくない。小泉内閣は、我々国民を“愚民”としか考えていない証左ではないのか…。