土地等の譲渡損失を損益通算できないとする2004年度税制改正は同年4月1日から施行され、損益通算の廃止は同年1月1日以後の譲渡からと遡及適用された。これを不服として多くの訴訟が起こされているが、東京高裁は11日、土地等に係る損益通算規制措置が施行日前の土地取引にも遡及適用できるか否かの判定が争われた事件の控訴審で、原審通り、納税者の主張を退け、遡及適用は憲法84条に違反せず合憲との判断を示した。
この事件は、土地の譲渡損失を他の所得と損益通算すると還付税金が生じるため更正の請求をしたところ、税務署が損益通算規制措置は年初から適用されると判断、更正の請求をすべき理由がない旨の通知処分をしてきたため、同措置の遡及適用は違憲であり、税務署の通知処分は違法であると提訴したもの。この訴えに対して一審の東京地裁が、憲法84条に違反せず、通知処分も適法として請求を斥けたため、納税者が控訴していた事案だ。
これに対して東京高裁は、「所得税に関する法規が暦年の途中で改正され、その年分の所得税について適用される場合、暦年の最初から改正法の施行までの間に行われた個々の取引についてみれば、改正法が遡及して適用されることになるとしても、所得税の納税義務が成立する暦年の終了時においては改正法がすでに施行されている」として、暦年当初への遡及適用が憲法84条に違反するとはいえず、合憲との判断を示した。
同様の訴訟で福岡地裁は2008年1月29日、租税法規不遡及の原則に違反し、違憲として、納税者の主張を認める判決を下した。同地裁は、不利益を被る国民の経済的損失が多額にのぼる住宅の取得に係る改正であり、その改正の周知期間の短さから、改正の内容が周知されていたとはいえず、国民の予見可能性を与えない形で行うことまでも許容するものではないことなどを理由に、遡及適用は違憲と判断している。
ただし、不動産譲渡損失の遡及適用が違憲との判決はこの福岡地裁のみで、この福岡地裁の判決を受けて国側が控訴した福岡高裁においても、昨年10月21日、一審の福岡地裁の判決を取り消し、国側に主張を認めている。今回の東京の納税者を始め同様の訴訟では上告するものとみられ、今後は最高裁の最終判断が注目されるところだ。