消費税率の引上げ時期については政府首脳間で温度差がみられたものの、有力視されていた2007年度からという線は可能性が薄れた。とはいえ、将来的な引上げは避けられない。日本総研はこのほど「消費税率引上げの影響を考える」と題したマクロ経済レポートを発表し、消費税率を1%引き上げると、勤労者世帯平均(年収723万円)では月間3000円の負担増となるとの試算を明らかにした。
レポートでは、消費税率引上げの家計部門への影響について、消費税率1%の引上げは、消費者物価を0.9%押し上げ、これに伴う実質所得の減少により、初年度の実質個人消費は0.6%、実質GDPは0.4%それぞれ下押しされると試算。1世帯あたりについては、年収下位20%の世帯(平均年収347万円)では月2000円、年収上位20%の世帯(同1234万円)では同4000円、全体平均では3000円の負担増になるとしている。
もっとも、現実の影響は、税率引上げの方法や実施時期の経済情勢により異なる。過去の経験を振り返ってみると、消費税導入時の1989年度には、物品税の廃止により実質所得の減少が小幅にとどまり影響は小さかった。これに対し税率を2%引き上げた1997年度には、特別減税の打ち切り(2兆円)、年金・医療保険改革(1.5兆円)が所得下押しに拍車をかけるなか、消費マインドが悪化し、消費が大きく低迷したと指摘する。
次に、海外諸国の動向に目を転じると、消費税率引上げの際には、所得税減税などと組み合わせて税収中立とした例は多いものの、ネット増税となったドイツ・フランスの例に注目。すると、景気拡大期と後退局面では増税の影響の出方に大きな違いがあり、消費税増税に伴う景気への影響が、1)景気局面の違いによる所得増加ベースと負担のバランス、2)増税に対する家計の納得感の度合いにより異なることが示唆されるとした。
このため、消費税率の引上げに際しては、1)足元の景気情勢に応じてある程度柔軟に対応できる枠組みを作っておくこと、2)漸進的に実施し、需要の大幅な変動を抑制することが重要だとしたうえで、1)徹底した歳出リストラを通じた財政健全化の道筋を提示すること、2)社会保障制度改革により、持続可能な制度への信頼感構築を進めることが増税実施の必要条件である、とレポートは主張している。
同レポートの詳細は↓
http://www.jri.co.jp/press/2006/jri_060113-2.pdf