個人所得課税抜本改革のなかで、給与所得控除の縮小が俎上に上がっている。その背景には、現状のサラリーマンの給与所得控除が手厚すぎるという批判があるが、果たしてそうした批判はフェアなのかと問いかけるのは第一生命経済研究所の熊野英生氏のレポートである。給与所得控除が拡大してきた要因のひとつに所得の捕捉率の格差に対する補てんといった性格がある。公正さ重視の議論を優先すべきだという主張だ。
政府税調が提起した諸控除の見直しには、所得税の担税力が弱体化していることと同時に、最低課税限度が上昇したことによって、課税対象者の適用税率が低くなっているという問題意識がある。例えば、所得税の限界税率の適用割合は、10%の適用を受けている人が約8割、20%の適用が15%程度、30%の適用が3%程度、37%の適用が1%未満と、圧倒的に限界税率10%の層に集中している。
レポートは、その問題意識を共有するものの、その見直しが「取れるところから取る」という流儀で、公正さを欠いたものにならないかを繰り返し吟味すべきだとの考えだ。給与所得控除縮小(1/3~1/2の削減)で2~3%税負担が上昇すると、サラリーマン世帯だけが、消費税率が3.0~4.6%上昇したと同じインパクトを浮けることになる、との試算を示している。
何よりも、給与所得控除が縮小されることは、自営業者などに比べて、サラリーマンが不利に置かれる状況を助長することになると懸念する。以前から、サラリーマンと自営業者の間にはクロヨンという所得捕捉率の格差の問題があり、サラリーマンは相対的に不利な立場に置かれているという批判がくすぶりつづけている。給与所得控除を縮小すれば、サラリーマンの課税範囲が広がり、クロヨンの環境がますます歪むと指摘する。
また、自営業者は、事業所得を得る段階で経費支出が認められ、給与を受けるときにさらに給与所得控除を得られるという手厚い控除が受けられるという批判もある。まずは、事業所得を含めて税の捕捉をガラス張りにする手当てのほうを優先すべきだと主張。こうした観点から、レポートは、政府税調での諸控除の見直しには公正さを重視した議論を期待する。増税の前に(と同時にでもいいが)課税の公平を、ということになろうか。
レポートの全文は↓
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/kuma_index.html