国家戦略の全体最適化のための法人税引下げの必要性を主張するのは、ニッセイ基礎研究所のコラム(百嶋徹氏)である。それによると、わが国の税制改革論議は、歳出と歳入、とりわけ社会保障と税の一体改革に重点が置かれているとして、法人税引下げは、企業優遇との誤解を招かないよう、単発の政策としてではなく、国全体のグランドデザインのなかでその必要性が議論されるべきだと主張している。
OECDは今年4月、わが国に対して、成長促進につながる包括的な税制改革の実施を提案した(「対日経済審査報告書2008年版」)。同提言にはサプライサイドへ積極的な影響を与える政策が盛り込まれているが、コラムが注目するのは、特に、OECD諸国のなかでももっとも低い消費税率を引き上げる一方で、約40%と高い法人実効税率をOECD平均(29%)に近い水準まで引き下げることを提案した点だ。
これまでもコラムの筆者は、わが国の企業立地競争力を抜本的に強化するためには法人実効税率の引下げが検討課題と主張してきた。また、過去のレポートにおいても、法人実効税率、減価償却制度、自治体の企業立地優遇措置など企業立地に関わる制度面では、いずれも国内立地がアジア主要国に対して不利であり、特に法人実効税率を中心に法人課税制度での格差が大きいことを示してきている。
一方、昨年後半以降、大手電機メーカーを中心に液晶や半導体の最先端の大型工場を国内で新設する計画が相次いでいる。これは、わが国が強みを持つ部材・装置技術の重要性が高まっていることが背景にある。そこでコラムは、政府に対し、こうした産業集積や産業人材など国内立地の比較優位な側面を維持・強化するとともに、税制面での劣位を抜本的に解消する施策を求めている。
アジア諸国では、国際的に比較優位な法人課税制度を設定するという、産業政策と租税政策の一体化を図った明確な国家戦略が採られているのに対し、わが国の税制改革論議は、歳出と歳入、とりわけ社会保障と税の一体改革に重点が置かれていると指摘。国家戦略の全体最適化のために、国として強化すべき産業領域を明確化した上で、産業構造ビジョンと法人所得課税体系の整合性をとることを求めている。
同コラムの全文は↓
http://www.nli-research.co.jp/report/researchers_eye/2008/eye080626.html