査察制度、いわゆるマルサは、大口・悪質な脱税者の刑事責任を追及し、その“一罰百戒”の効果を通じて、申告納税制度を守る最後の砦といわれる。1948年に導入されたが、当時は、経済全体が激烈なインフレ下にあり、納税秩序も乱れていて、そのインフレによる利得を隠すものが多く、例えば50年度では909件など査察件数も多かった。近年は200件前後で推移しているから相当な数である。
ただし、刑事罰を科すために検察庁に告発する件数はそう多くはなかった。1年間の処理件数に占める告発件数の割合である告発率は、近年、70%前後で推移しているが、査察件数が相当数にのぼった50年度の例でいえば、わずか8.0%(73件)に過ぎない。しかし、戦後のインフレが終息して経済が安定化し、申告納税制度が定着するとともに、査察の対象には社会的非難を受けるに値する事案を選ぶようになり、告発率も上昇していく。
それでも当初は実刑判決がなかった。つまり、執行猶予と罰金刑で済んでいたのだが、懲りない面々に対し“一罰百戒”効果を高めるため、80年に初めて実刑判決が出された。以降は毎年実刑判決が言い渡されている。先日公表された2003年度版査察白書によると、2003年中に一審判決が言い渡された133件の事件すべてに有罪判決が出され、うち6件に対し執行猶予がつかない実刑判決が言い渡されている。
平均の懲役月数は15.6ヵ月、罰金額は約3200万円となっている。懲役月数は近年、15ヵ月前後で推移している。査察の対象選定は、各国税局によって違いがあるが、脱税額1億円が目安といわれている。また、脱税額や悪質度合の大きさが実刑判決につながる。査察で告発されると、社会的信用を失うだけでなく、脱税額を超える罰金刑や、場合によっては実刑判決もある。つまらぬ“出来心”は起こさないでほしいものだ。