企業収益が大幅に改善しており、雇用・所得環境にも改善の動きがみられる。しかし、今年10月に実施される厚生年金保険料の引上げが、雇用・所得環境の先行きを考えるうえでリスク要因となるおそれがある。ニッセイ基礎研究所はこのほど、「年金改革は企業にどのような影響を与えるか?」と題したレポート(篠原哲研究員)を公表した。
レポートによると、今年10月から2017年まで厚生年金保険料が労使合計で毎年0.354%引き上げられるが、保険料の半分を負担する企業も長期的に負担増を強いられるため、企業収益を圧迫し、雇用・所得環境を悪化させる可能性が考えられるとしている。
そこで、保険料負担額を試算した結果、2017年度の企業の厚生年金保険料負担額は2002年度の約1.3倍の規模まで増加する。企業は人件費を削減することで収益を改善してきたが、長期に及ぶ厚生年金保険料の引上げにより、企業は保険料の増加を通じ、追加的なコスト増を強要されることになる。
企業の厚生年金保険料に対する負担増価額は制度改正の影響のみで年間2600億円ほどにのぼるが、負担増を吸収できるだけの企業収益の改善が2017年度まで続くとは考えにくく、保険料負担が増加するにつれて、企業は再び雇用や給与の削減に取り組み始める可能性が考えられる。
具体的には、1)従業員の賃金水準の抑制、2)雇用者数の抑制、3)正社員に代わり、厚生年金が適用されないパートでの代替、という形での対処が考えられる。このような傾向は、大企業に比べ企業収益の改善が送れている中小企業で、特に顕在化するおそれがあると指摘している。