財務諸表に基づく経営指標が開発され、それらを重視する経営が増えている一方、「企業の実力は財務諸表分析だけでは測れない」、「財務諸表の経営指標に表れない企業の見えない力が企業の継続的発展に必要」といった声が多く聞かれはじめてきた。そうした声と時期を同じくして登場したのが「見えない資産」や「インタンジブル経営」という2つの概念である、と指摘するのは三菱総研・主任研究員の石塚真理氏のコラムである。
コラムは、「見えない資産(インタンジブル・アセット)」について、米マサチューセッツ工科大学のブリニョルフソン教授が自著『IT投資と生産性』のなかで「IT投資の生産性を上げるためには、目に見えるハード・ソフトへの投資だけでなく、業務遂行プロセスや社員など“見えない資産”への投資が必要」との主張によって注目されるようになったと説明している。
また、「インタンジブル経営」については、ミシガン大学のウルリッチ教授が共著『インタンジブル経営』において「人材、スピード、学習力、リーダーシップ・ブランドといった無形資産を活かし企業価値に結びつけることが経営上重要である」と指摘したことを紹介している。
これら2つの概念について、コラムは、自分の店ののれん・顧客・従業員といった「見えない資産」を大事にすることは、経営においては伝統的に行われてきたが、その当たり前のことが短期志向にならざるを得ない経営環境において見失われていたとも捉えている。
経営において「見えない資産」を重視するという主張は、多くの人の実感にフィットする。さらに「見えない資産」のなかでも、人材と組織は特に重要である。誰もが取引先や協力会社に対し評価を持っているが、この評価は各企業の個人レベルの問題把握・施策立案力と組織レベルの問題解決力の総和といえる。コラムは、これらの能力を高めることで、事業における附加価値の拡大とイノベーションが実現される、との考えを示している。