国税庁は7月2日、日本と米国の権限のある当局が「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約」(「日米租税条約」)第26条に基づいて行われる情報交換に関し、「アメリカ合衆国と日本国の権限のある当局間の同時査察調査実施取決め」に合意したことを明らかにした。近年、国際取引を利用した査察事案の増加が背景にある。
先日国税庁が公表した2011年度査察白書においても、国際取引を利用した査察事案として、(1)国内で行っていたFX取引を英領ヴァージン諸島の法人の取引に仮装した上、得た資金をシンガポールに送金し、留保していたもの、(2)ベトナムへ中古農機具を輸出していた業者が、消費税の申告において、架空の輸出免税売上とそれに見合う架空仕入を計上する方法により、不正に消費税の還付を受けていたものなどが報告されている。
また、不正資金の留保状況や隠匿場所等においても、香港で開設した預金口座で留保するケースや海外のカジノで遊興し費消したケースなど国際的となってきている。そして2011年度の査察の処理事案では、上記の事案などへの対処のため租税条約等の規定に基づく情報交換を外国税務当局へ要請した事案が13件も含まれると同時に、外国税務当局からの要請により、犯則調査を実施し情報を提供したものもあった。
こうしたことから、海外査察案件取締り強化に向けて日米同時査察実施取決めの合意に至ったわけだ。同時査察調査は、日米両国において、関連する納税者等にそれぞれ犯則嫌疑がある場合に、国税庁と米国税務当局の査察部門が並行して査察調査を行うもの。日米租税条約第26条は、自国の査察調査のために必要な情報提供の相手国への要請や、相手国にとって有効と認める自国の査察調査で把握した情報を相手国に提供することができる。
これに加え、両国の権限のある当局が同取決めに基づく同時査察調査の実施に合意した場合には、権限ある当局間で交換された情報について、事件ごとに査察部門の職員の中からそれぞれ当局が決めた指名代表間で直接協議等を行うことが可能となるため、より効果的な調査展開が図られることになり、査察における国際取引事案の一層の把握強化が期待できることになる。