中国政府が7月、人民元制度改革の柱の一つとして、これまで事実上米国ドルに固定してきた為替相場制度を見直し、「通貨バスケット制」を参考にした「管理フロート制」を採るとしたため、注目を集めている。この中国が採用した制度がどのようなものなのかを、みずほ総研(上席主任研究員小野有人氏)の「今月のキーワード」で取りあげているので紹介したい。
まず「通貨バスケット制」とは、固定相場の一つだが、単一通貨に自国通貨を固定するものではなく、複数の外国通貨をウエイト付けして合成した通貨バスケット(通貨単位)に対して自国通貨が固定されるものと説明。中国の場合、通貨バスケットの構成通貨として、米ドル、ユーロ、円、韓国ウォンが中心となっているほか、シンガポール・ドルなど他のアジア通貨や、英ポンド、カナダ・ドルなどが含まれているとみている。
ただし、中国政府が採用したのは、通貨バスケットを「参考」にした「管理フロート制」である。国際通貨基金(IMF)は、管理フロート制を「通貨当局が、特定の為替レート目標をもたずに、必要に応じて裁量的に為替レートに影響を及ぼそうとする為替制度」と定義している。ところが、先般の人民元の対米ドル基準レートの約2%切上げ、日々米ドルに対して0.3%の範囲内での相場変動を認めた措置は、「特定の為替レート目標をもたない」という管理フロート制とは矛盾している。
通貨バスケット制の利点は、自国通貨価値が、通貨バスケットを構成する外国通貨の加重平均で決まるため、特定の外国通貨が大きく変動した際に、その影響を緩和できる点にある。仮に貿易相手国との貿易量に応じて構成通貨やそのウエイトが設定されていれば、輸出競争力を安定的に保てる。このため、東アジア諸国との域内貿易の比重が高い中国の場合、人民元をドルに連動させるよりも、通貨バスケットに連動させるほうが望ましい。
中国は、通貨バスケットを為替管理の「参考」にするとしているが、これまでの人民元相場の動きをみると、米ドルへの連動度合いが大きく、変動幅も非常に小幅なものにとどまっていることから、実態的には、管理フロート制ではなく、引き続き固定相場制を採っていると考えられる。みずほ総研は、「中国が、名実ともに通貨バスケット制の採用に踏み切るのかどうか、今後の為替相場の動きから目が離せない」としている。