わが国の財政状況は先進国のなかでも最悪で危機的な状況にあるが、すでに実質破綻しているとか、明日にでも財政が破綻すると考えるのは間違いだ、との意見は東レ経営研究所の増田貴司氏のレポートである。とはいえ、財政赤字の拡大は、経済に対して財政の硬直化、財政に対する市場の信認低下、世代間の搾取などの弊害をもたらすため、財政悪化を放置することはできないとして、健全化の条件や道筋を提案している。
レポートによると、わが国財政が最悪だというが、実際には、国や地方自治体が持っている資産を売却して借金を返済することも可能なのだ。債務負担の大きさは純債務(負債-金融資産)で計るのが適切である。政府は約430兆円の金融資産を保有しており、これらを差し引いた政府の純債務はGDPの約70%と、イタリアやベルギーよりは低い水準にとどまっていると説明する。
また、財政状況を家計になぞらえて破綻寸前だとする見方がしばしばなされるが、これは、国の借金は家計の借金とは性格が違う点を忘れた議論だと指摘する。国の借金は、個人の借金とは違って、期限までに全額返済しなければならないというものではない。国が国債発行という形で債務を背負う分、満期時に国債の借換えを行う(満期がきた国債を償還するために、新規国債を発行する)という選択肢があるからだ。
だから、国債の買い手が市場にいる限り、国は借換えを続け債務の返済期限を先延ばしすることができる。個人と違って国には寿命がないから、これが可能になる。そのうえ、日本の公的債務の場合、貸し手のほとんどが国内の投資家であり、日本国民が日本国民から借金をしている格好だ。したがって、海外から多額の借金をしていた累積債務国と違って、急な資金の引上げによって危機に瀕するといった心配もない。
以上の点を考えれば、わが国財政が実質破綻しているとか、明日にも破綻するとセンセーショナルに煽るのは不適切といえる、というのが増田氏の意見である。とはいえ、もちろん財政悪化を放置することはできない。氏は、財政悪化を回避するための条件として、1)基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化、2)名目金利を上回る名目経済成長率を確保すること、の2つを挙げている。
レポートの詳細は↓
http://www.tbr.co.jp/keizai/ronten/0504zaisei.pdf