政府税制調査会において、個人所得課税の抜本的見直しに向けた作業が始まった。その背景には、相次ぐ減税などでやせ細ってしまった所得税の持っている財源調達機能や所得再分配機能など「所得税課税の本来の機能の回復」という大命題がある。個人所得税収は、1990年の26兆円からいまや13兆円まで落ち込んでしまっており、厳しい財政事情のなかでの税収増への期待もある。
個人所得課税の抜本的見直しの前提である定率減税の廃止は今回の改正で縮小され、配偶者特別控除や老年者控除など諸控除の見直しも着々と進められており、次のターゲットのひとつとして浮上しているのが、給与所得控除である。給与所得控除は勤務費用の概算控除といわれるが、その意味では過大すぎるとの批判が以前からあった。給与所得控除の水準をみると、平均で給与収入総額の3割程度が控除されている。
一方、総務省の家計調査を参考に、諸外国で勤務費用と認められている旅費、通勤費、研修費などの支出以外に、背広や靴、理髪代、新聞・書籍、小遣いなど、必要経費と思われるものを広めに拾い出しても年間50万円程度にしかならない。経費の範囲を、健康維持のためのスポーツジム費用やドリンク剤、同僚との付き合いも含めた交際費など、相当強引に広げても現行の給与所得控除の壁は越えられまい。
そこで、給与所得控除の見直しの方向は、必然的に縮減ということになるが、もう1点、実額控除を認めている特定支出控除制度を再構築することがある。同制度の適用者は、例えば2003年分の確定申告では10人(2004年3月末現在)に過ぎず、ほとんど形骸化している。現行制度では通勤費用や転勤に伴う転居費用など5項目が特定支出とされているが、その範囲を見直し、実額控除で確定申告する範囲を広げることが検討される。
税に関心が薄い多くのサラリーマンに確定申告の道を拓くことで、「多くのサラリーマンの納税者意識を高めてもらう意味で、納税者の感覚を呼び戻したい」(石弘光政府税調会長)という狙いもある。政府税調は、所得課税の抜本的見直しの論点整理を6月にまとめる予定だ。実現時期については、政治の問題として明記しない方針だが、給与所得控除が縮小される方向にあるのは確実だ。