現行の相続税法は相続財産を取得した相続人に課税するいわゆる取得者課税主義を採用しているので、相続人間における相続財産の帰属の確定ということが重要な問題となる。ところが、相続が発生した場合、遺産分割の話し合いが長引き、遺産分割が相続税の申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内)までに確定しないことも少なくない。なかには、遺産分割をめぐって裁判まで持ち込まれる例もある。
このようにして申告期限までに遺産が未分割の場合は、相続税額の計算上、不利な取扱いを受けることになるので注意が必要だ。相続税計算の特例の代表的なものには、配偶者が相続した財産に関しては原則法定相続分までは相続税がかからない配偶者の税額軽減や、遺産のうち居住用や事業用の宅地で一定のものは最大400平方メートル部分まで80%の評価減がある小規模宅地の特例などがある。
しかし、遺産が未分割で期限後申告となると、これらの特例が認められないことになる。もっとも、申告期限後3年以内に分割協議が整って、(1)申告期限内に「3年以内の分割見込書」を相続税申告書に添付して提出していること、(2)申告期限から3年以内に遺産分割が確定し、その4ヵ月以内に更正の請求をすること、という要件を満たしていれば、あらためてこれらの特例の適用を受けることができる。
そのほか、相続税では税金を金銭で納付することが困難な場合は物納が認められているが、遺産が未分割の場合は、相続財産は相続人全員の共有財産となるため、物納しようとする財産の物納を相続人全員が一致して申請しなければならず、一部の相続人だけで物納申請することができない。遺産分割の話し合いが難航していると、多くの納税者は相続税計算の特例まで考慮する余裕がなくなってしまうが、十分に注意したい。