中小企業が相続税の過重な負担のために次世代に継承されないことは、わが国経済にとって大きな損失となる。そのため、2006年度税制改正においては、キャッシュに乏しい中小企業の事業承継の円滑化のため、自社株式の物納に係る許可基準を緩和するなど手続きが改善される。主な見直しは、物納不適格財産の明確化や許可基準の緩和、物納手続きの迅速化・明確化などである。
まず、これまで不明確だった物納不適格財産を法令で限定・明確化する。現行の不適当財産は、譲渡に関して定款に制限がある場合や売却できる見込みのない場合など、基準を通達で規定している。改正後は、法令で限定的に規定し、不適当要件に該当しなければすべて物納可能となる。取引相場のない株式については、譲渡制限株式のみが物納不適格とされ、それ以外の株式の物納は業績などを問わずに認める方針だ。
物納許可に係る審査期間については、現行では許可判断に数年を要するケースもあるが、これを原則3ヵ月以内と法定する。物納手続きについては、1)物納申請時に提出すべき書類を財産種類別に定める、2)税務署長は、1年以内の期限を定めて廃材の撤去等の必要な措置を講ずべきことを物納申請者に請求することができるなど、物納手続きに必要な書類の明確化及び提出期限を法定する。
また、相続税の延納中の者が、資力の状況の変化などにより延納が難しくなった場合には、申告期限から10年以内に限り、延納税額からその納期限が来た分納税額を控除した残額を限度に、物納を選択することができる制度を創設する。そのほか、金銭や延納による納付困難な要件について、判定方法を明確化する、税務署長がやむを得ない事情があると認めるときは超過物納を認めるなど、納税者の利便性の向上が図られる。
このように、物納許可基準の緩和など手続きの大幅改善によって、自社株式の物納が増加し、キャッシュに乏しい中小企業の事業承継の円滑化に直接寄与すること、また、国が多くの株式の売却主体となることにより、高いといわれている相続時における株式の評価の適正化につながることも期待されている。これらの改正は、2006年4月以後に相続等で取得した財産に係る相続税について適用される。