自殺者が7年連続で3万人を超えるなど「心の病」が増加傾向にあるなかで、産業界におけるメンタルヘルスへの取組みが重要になっている。長時間労働が過重労働の元凶として声高に叫ばれているが、残業対策はメンタルヘルス対策として有効か、残業を減らす方法はあるのかなどを検討したのは、社会経済生産性本部がこのほど発表した2005年版「産業人メンタルヘルス白書」である。
同白書によると、残業時間がふえると、1)生活習慣を乱し、特に睡眠時間がへる方向にある、2)心身の健康尺度は不健康な傾向となり、特に「疲労」は顕著に悪化する、3)職場では「仕事への負担感のなさ」が負担感のある方向にふれる、4)家族との関係は、残業が60時間以上になると問題がうかがえる、5)自殺念慮も60時間以上になるとふえる、との結果を労働者を対象とした「心の定期健康診断調査」から導き出している。
このことから、長時間残業、特に60時間以上は好ましいものではないとの結論になる。しかし、労災の認定基準である月80時間を超える残業は、必要な睡眠時間が取れなくなるという理由から引かれたものだ。確かに、健康診断調査では、残業時間がふえれば睡眠時間はへる傾向にあるが、問題となる睡眠5時間未満の者は、残業60時間以上よりも残業60時間未満のほうに倍以上おり、残業時間だけを頼りにしていては的外れのメンタルヘルス対策となると懸念している。
一方、残業対策として長時間残業者を特定して対策を講じることがあるが、これは結果として本人の意欲をそぐばかりでなく、罰則としての意味合いを持たないかとの懸念を示している。厳しく管理をすれば残業はへる可能性はあるが、個人責任を過度に追及することは、メンタルヘルス上も好ましくなく、残業規則の達成と引き換えに不調者の増加をもたらしかねないと警告している。
同白書の概要は↓
http://www.js-mental.org/teigen/Hakusho2002.doc
残業が多いことは基本的に好ましいことではない。しかし、一律に規制するのではなく、残業の多い理由が、意欲の高さのためなのか、職場設計がうまくいっていないためなのかという見極めがまず必要だ。健康診断調査のデータからは、仕事の範囲・責任が明確になっている職場ほど不調者がすくなく、残業時間もすくないという結果がえられている。同白書は、今後、職場の現状に合った対策が望まれるとしている。