わが国の財政が危機的な状況にあることは、政府・経済団体・マスコミなどがことあるごとに喧伝してきたが、国民一人ひとりの実感は極めて乏しいのではないか。国民の間で危機感を共有していないことが、財政再建が進まない最大の原因だとして、国民による危機感の共有化を訴えたのは、経済同友会がこのほど発表した「活力ある経済社会に向けた財政健全化の道筋」と題した提言である。
わが国は、現在、80兆円の税収に対して35兆円もの財政赤字を計上し、長期債務、つまり借金は740兆円を超えている。このような著しい財政の悪化を実感できない要因は、数字が現実離れしていることにある。そこで、提言は、冒頭において、危機感をより実感してもらうために、国の財政の現状を平均的な世帯の生活状況に引き直し、年収630万円で年間280万円の赤字を出していることに相当すると指摘する。
こうした不健全な家計運営を続けてきた結果―現実の一般世帯であればとっくに破綻しているだろうが、借金の総額は年収の9倍を超える5830万円にものぼる。それでも生活を切り詰める努力を怠り、毎年毎年、新たに借金を重ねている。健全な家計を維持するには、住宅ローンの場合では年収の5倍程度がほぼ限界。年収の9倍を超える借金を抱えていては、借金の返済負担を子どもにまで回さざるを得ないだろう。
しかも、せっかく購入した住宅の価値が下落していたら大変である。仮に、住宅や車などの資産を売却し、預貯金もすべて借金の返済に充てようとしても、これでは生活の場や蓄えを失い、生活が成り立たない。健全な生活を取り戻すためには、借金を一定レベルまで減らす必要がある。それには、まず生活費を年収以下に切り詰め、さらに借金の利払いを含めて年収の範囲内に抑えれば、借金の拡大は防げる。
しかし、より一層の努力をしなければ借金は減らせない。もちろん、生活を切り詰めるだけでなく、家計収入を増やすことも考えられる。どの程度の生活レベルを望み、そのためにどの程度がんばるかは、各家庭が選択すべきことだ。結局、家族全員が危機的状況を真正面から受け止め、将来の生活設計を立てたうえで、支出削減と収入増への約束事をきちんと定めて、家計を健全化していく以外に道はない、というのが本提言の論旨である。
財政健全化のため、歳出歳入構造の抜本改革と財政健全化法(仮称)の制定などを盛り込んだ同提言の詳細は↓
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2004/pdf/050422.pdf