実務家の間で波紋を呼んだ土地・建物等の譲渡損失の損益通算廃止は、今年1月1日以降は不動産所得の譲渡損と他の所得との損益通算ができなくなり、翌年以降への繰越控除も廃止された。この譲渡損失の損益通産廃止だが、一部に誤解があるようだ。それは、逆の場合、つまり、土地等を売却して譲渡益が出た場合は事業所得などでの赤字と通算できるのではないかと考えている納税者がいることだ。
結論からいえば、この損益通算廃止は譲渡益についても適用される。誤解の背景にあるのは、今回の改正では損益通算を規定した所得税法69条の条文自体は何ら手当てされておらず、損益通算の廃止は、措置法31条・32条で損益通算の各種所得金額から長期・短期譲渡所得金額が除かれることが明記されているだけだということにある。
ついつい見落としがちになるが、これを読み替えることによって、不動産所得の譲渡による所得以外の所得が赤字の場合、不動産の譲渡による所得の黒字から、その赤字を控除することはできないものとされているのだ。
そもそも損益通算の廃止が突然浮上した昨年末の自民党大綱においても、譲渡損の損益通算廃止しか記載されていなかったため、譲渡損ばかりがクローズアップされて、譲渡益は他の所得の赤字との損益通算は認められるのではとの誤解が生じていたようだ。いずれにせよ、含み益のある土地を売却して苦しい事業の台所に回そうと考えていた方々にとっても救われない改正である。