査察、いわゆるマルサは、大口・悪質な脱税をしている疑いのある者に対し、犯罪捜査に準じた方法で行われる特別な調査だ。調査にあたる国税査察官には、裁判官の発する許可状を受けて事務所などの捜査をしたり、帳簿などの証拠物件を差し押さえたりする強制捜査を行う権限が与えられる。この査察調査は、単に免れた税金や重加算税などを納めさせるだけでなく、査察官への告発を通じて刑罰を科すことを目的としている。
刑罰とは懲役や罰金だが、実をいえば、以前は実刑判決がなかった。つまり、執行猶予と罰金刑で済んでいたのだが、懲りない面々に対し“一罰百戒”効果を高めるため、1980年に初めて実刑判決が出された。以降は毎年実刑判決が言い渡されている。2004年度版査察白書によると、2004年中に一審判決が言い渡された171件のすべてに有罪判決が出され、うち11件に対し執行猶予がつかない実刑判決が言い渡された。
平均の懲役月数は15.3ヵ月、罰金額は約2700万円だ。査察の対象選定は、脱税額1億円が目安といわれている。また、脱税額や悪質度合いの大きさが実刑判決につながる。査察で告発されると、社会的信用を失うだけでなく、巨額な罰金刑や実刑判決もありうるわけだ。ちなみに、刑罰は5年以下の懲役または500万円(脱税額が500万円を超える場合は脱税相当額)以下の罰金となるか、あるいは懲役と罰金の併科となる。
2004年中の一審判決を例にとると、16億8800万円にのぼる所得を脱税していた納税者に対し、罰金1億5000万円、懲役2年の実刑判決が下された。そのほか、この納税者は、国税本税6億9800万円、加算税等2億9500万円、地方税3億300万円が課税された。脱税は、いわば社会公共の敵というべきもの。財政再建が最重要課題のなかで、悪質な脱税に対する裁きは、より厳しくなる傾向にあろう。