2003年10月27日-002
持続的な成長に欠かせない金融システムの健全化
株価が回復し設備投資も上昇、景気が上向く兆しが見え始めたが、日本経済は順調に回復していくのか。企業決算ごとに繰り返された「危機」説が本当に消えたのかを分析するのは経済産業研究所研究員の小林慶一郎氏である。氏は、今回の景況感の改善を一時的なものに終わらせないためには、不良債権処理、金融システムの健全化を早急に進める必要があると主張する。
今年3月期での上場企業の業績は、売上が横ばいにもかかわらず、税引前利益は前年度の4倍近くなった。固定費の圧縮など企業の厳しいリストラ努力で、売上が伸びなくても収益が上がる体質ができてきたのだ。後ろ向きのリストラがようやく終わり、前向きの投資ができるようになったため、最近は設備投資などが改善してきた。自助努力によって経済が自立回復する兆しだ。
一方、株価の上昇を理解するには、金融要因が重要だ。春先には企業の経営体質が改善したにもかかわらず、株価は低迷していた。このときは金融危機の懸念がまだ大きかった。その状況を一変させたのは、りそなグループへの2兆円の公的資金投入である。銀行や関連企業が健全化したから株が買われたのではなく、「政府は銀行株主を守る」という安心感からの株の買戻しだったのである。
実体面では企業活動に自立回復の兆しがみえるものの、株価の回復は、「日本の成長に対する信任の表れ」とは言い難いのである。企業努力で回復し始めた景気を経済全体の持続的な成長につなげるためには、金融システムの健全化が欠かせない条件だ。金融問題を先送りすれば、実体経済にせっかく出てきた回復の目も育つことはない。不良債権処理などによる金融システムの健全化は、手を緩めずに進めなければならない。
また、不良債権処理に伴う失業に対処するため、雇用などのセーフティネットも充実させる必要がある。このような金融再生や雇用対策などのコスト負担は政府の問題だ。財政健全化には長い時間をかけざるを得ないが、財政の将来像が見えてこないと、国民は安心して消費することもできず、景気はよくならない。特に年金や消費税は長期的な展望を描く必要がある。国民不安を払拭するためにこの点の政策論議が深まることが期待される。
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