欠損金が生じた場合、これまでは設立5年以内の一定の中小企業にしか認められなかった「欠損金の繰戻し還付」が、2009年度税制改正ですべての中小企業が対象となった。前年度に黒字だった法人が今期赤字に陥った場合、前年度に納税した法人税の還付が受けられる。一方で、この欠損金は、これまでどおりその後7年間に限り所得金額から差し引くことができる「欠損金の繰越控除」がある。さて、どちらが有利なのか。
その前に、欠損金の繰戻し還付に関して、実務家は、実際に還付を受けている企業は少ないとみている。それは、この制度を適用するにあたって還付請求書を提出した場合には、税務署長が、その請求の基礎となった欠損金額その他必要事項について調査することが税法で規定されていることが一因となっている。その調査が具体的にどのようなものなのかまだよく分からなくて、適用を迷ってしまう経営者が多いとみている。
また、還付を受けられるのは法人税だけで、事業税など地方税は還付されず、金額的にもあまり多額とはいえないケースが多い。加えて、繰戻し還付か繰越控除かで、多少の有利不利が生じることで迷うこともある。今年4月以降開始事業年度から中小企業の800万円以下の所得に対する軽減税率が22%から18%に引き下げられたので、800万円以下については、軽減される法人税額は繰り越す場合のほうが少なくなっている。
しかし、例えば、3月決算の企業で、昨年3月期の所得が800万円で、今年3月期に800万円の欠損金が生じ、さらに来年3月期に2000万円の所得が生じたケースを考えてみると、繰り戻した場合は「800万円×22%」で176万円が還付される一方、繰り越した場合は、2000万円の所得から800万円が差し引けて、800万円を超えたところの税率は30%だから、来年3月期に軽減できる法人税は「800万円×30%」で240万円になる。
上記の例では、今までどおり繰り越したほうが有利となる。もちろん、現在の低迷した経済環境下、そんなに早い段階で今の状況が大幅に好転する可能性は少なく、ほとんどの場合は、繰戻し還付を選んだほうが有利となるだろう。だが、先のことは誰にも予想はできないので、有利不利を一概に判断するのは難しいともいえる。なんとも判断に迷うところである。