今年も16日、高額納税者公示、いわゆる“長者番付”が全国524税務署で一斉に公表された。2004年分の確定申告で所得税額が1千万円を超えた高額納税者の公示である。公示対象者数は近年減少傾向にあったが、今回は前年より1681人増えて7万5640人と、4年ぶりに増加した。10億円以上の納税者が前年の2人から6人に増えた。着実な景気回復が裏付けられたともいえる。
詳細は新聞報道にお譲りするが、ここ数年くすぶっていた公示制度見直しの声が今年は例年になく高まりそうである。個人情報保護の厳格な取扱いを義務付けた個人情報保護法が4月から全面施行されたことが、見直し論に拍車をかけている。これまでも、氏名、住所、納税額を公表する現行の公示制度は、その役割以上にプライバシーの観点から問題が多いとの批判が絶えることがなかった。
公示制度が導入された1950年当初の本来の目的は、「高額所得者の所得金額を公示することによって、第三者によるチェックという脱税けん制効果を狙う」ものなのだ。その役割は、内部告発などの“タレコミ”による税務調査の端緒を期待するものとして47年に導入され、54年には廃止されてしまった「第三者通報制度」に近いものがあった。ところが、近年は第三者によるチェック機能という本来の役割は形骸化しているとの指摘が多い。
その一例は、高額納税者の公示対象が3月末までに提出された申告書に限られることから、当初は所得税額が1千万円を超えない所得で申告しておいて、4月1日以降に本来の所得で修正申告するという“裏ワザ”がまかり通っているとみられていることだ。一方で、長者番付に載ったことによって、団体・企業からの寄附の強要や営業攻勢、勧誘にさらされるとのプライバシーの観点からの問題が指摘されている。
なかには、窃盗・誘拐や“振り込め詐欺”など犯罪の基礎資料になっているおそれも否定できない。国税当局は、「社会的な監視が働いていること自体が、心理的に適正申告を促す面がある」(国税庁)というが、そのような不明瞭な効果なら、「納税者番号制度の導入を先に考えるべき」との意見のほうが説得力がある。かくして今年は、財務省が本格的に制度を見直すとの報道もあり、今回の長者番付が見納めになる可能性は少なくない。