厚生労働省では、11月を「賃金不払残業解消キャンペーン月間」とし、いわゆるサービス残業の解消に向け、労使の主体的な取組みを促すためのキャンペーン活動を実施する。2003年度において、全国の労働基準監督署の指導によって不払いとなっていた割増賃金の支払いが行われた企業数は1184企業、対象労働者数は19万4653人、支払われた割増賃金の合計は238億7466万円にのぼる。
これは、1企業あたり合計100万円以上の支払いがなされた企業を集計したものであり、また内部告発などでサービス残業の実態が明るみに出たものだけだから、当然氷山の一角である。サービス残業の難しさは、企業側が一方的にただで働けと押し付けているわけではない面もあるところだ。例えば、従業員が所定時間内に終わらない仕事を自己責任から自発的に残業してこなすこともある。
成果主義が進んでいるが、従業員はサービス残業をしてでも仕事をこなせば昇給などに有利に働くと考え容認する。有能な人間には仕事が集中する。一方、企業側にとっては、人件費の面からあまり残業代を要求されても困る。そこで、残業時間の限度を設けるから、それを超えたものはサービス残業となる。そういった仕組みが企業を成り立たせ、ひいては従業員の生活を保障するとの建て前になる。
とはいえ、立場の強い企業側が雇用者の弱みに付け込んで一方的にサービス残業を押し付けている場合は問題だ。立ち上げたばかりの企業が、従業員が無償の残業を厭わず一丸となって働くといったケースは珍しくないが、従業員がサービス残業をする一方で、社長がベンツを乗り回したり豪華な邸宅を建てたりすれば疑義が起ころう。つまり、サービス残業はすべて悪いとは言い切れないところに難しさがある。
ともあれ、11月はサービス残業解消に向け、ポスターやリーフレット、広報誌などによる啓発活動の実施、事業主団体等への協力要請、無料相談ダイヤル(0120-897-933)の設置などのキャンペーン活動が行われる。色々な事情があるとはいえ、サービス残業はないほうがいいのだから、企業側と従業員側が十分に話し合うことが必要だ。“暗黙の了解”に頼っていては、いつか組織に反故をきたすことを肝に銘じよう。