景気の回復基調を背景に企業の金あまりは80兆円にも達すると推計される。最近、この規模に着目して、個人所得課税を強化するならば、法人税率を引き上げるべきだとの意見がある。こうした発想に真っ向から反対するのは第一生命経済研究所の熊野英生氏のレポートである。氏は、法人税を支払っている約3割の企業だけを狙い撃ちすることは、公平性をゆがめ、不公平構造を温存すると指摘する。
レポートは、まず法人税の課税状況に大きなアンバランスがあることに言及。かつて1989年度に19兆円あった法人税収は、2004年度の決算ベースでは11.4兆円にまで目減りしている。その要因は、法人税率の引下げもあるが、景気悪化や欠損企業の割合の増加がある。欠損企業の割合の増加については、景気悪化により赤字に転落した部分もあるが、恒常的に利益を計上しない企業が増えている可能性があるとみる。
また、法人税収は、資本金10億円以上の企業が約50%を、資本金1億円以上では約65%を支える構造となっている。資本金10億円以上の大企業でも約4割が欠損企業となっている。これらの欠損企業は、損益ベースではマイナスだが、営業収入ベースでは増加している企業が増えている。仮に、2003年度時点で、欠損企業が営業収入に見合った法人税を支払っていれば、全企業では3.6兆円の税収増となると試算している。
景気回復が進んでも、法人税が増えない理由には、繰越欠損金を当期の利益に通算して納税する制度の影響がある。企業の抱えている繰越欠損金を国税庁の「会社標本調査」でみると、2003年度時点で72.9兆円と肥大化していて、課税所得の32.4兆円を大きく上回る水準となっている。
レポートは、欠損企業に対する(公的サービス享受分は税負担すべきだという)応益負担の問題は一考に値すると考える。今後の法人税課税の論議では、企業に公平な負担を求める方法が問題となるという。業績の好ましくない企業への悪影響が大きくなることなど、弊害防止を考慮して慎重に進める必要があるが、短兵急な課税強化を避けながら、公平な課税とは何かを深く検討していくことが重要だと主張している。
レポートの全文は↓
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/kuma/pdf/k_0510f.pdf