税 務 関 連 情 報 |
2002年05月20日-001
どうなる「長者番付」をめぐる存廃論議
5月16日から所得税額が1,000万円を超える高額納税者の公示、いわゆる「長者番付」が全国524の税務署で公表された。今年は、3月末までに確定申告した約707万7,000人のうち1.1%に当たる7万9,838人が公示対象となった。相変わらずマスコミは芸能人やスポーツ選手、文化人などの“稼ぎぶり”を紹介しており、格好の“お茶の間の話題”となっている。このような野次馬的、興味本位の見方はさておき、プライバシー侵害などの問題を中心に公示制度の存廃を含め見直しを求める声が根強い。
当欄で既報(5月13日付)のように政府税調で議論がなされたが、賛否両論で結論はつかなかった。議論の焦点は、公示制度が昭和25年に導入されたときの趣旨「第三者によるチェックというけん制効果」と「プライバシーへの配慮」のどちらを優先するかにある。
プライバシーの観点からいえば、「長者番付」に載ることによって、各種寄附・勧誘、営業攻勢にさらされるとの問題点がある。また、「長者番付」は格好の「誘拐候補者名簿」だと、窃盗・誘拐などの犯罪に巻き込まれるおそれの指摘もある。ところが、国税当局によると、公示制度がプライバシーの侵害だなどの批判的な意見が寄せられたのは、昨年6月までの1年間で20件程度に過ぎないという。公示対象者が約8万人であるから、批判的な声は納税者全体の中では極めて少ないといえる。
一方、第三者によるチェック機能という面に関しては、公示対象が3月末までであることに着目して、当初は所得税額が1千万円を超えない所得で申告し、4月1日以降に修正申告する“公示逃れ”があることから、制度の形骸化が指摘されている。「修正申告は公示義務はない」との国税当局の態度は一貫しており、公示されたくない人にとって、少々の延滞税は安い費用だ。
このように、どちらも制度の存廃を決める決定的な理由とはならないようだ。国税当局は、「プライバシーの問題等から見直すべきとの否定的な声がないわけではないが」と前置きしたうえで、「社会的な監視が働いていること自体が心理的に適正申告を促す面がある」として、現状では制度の趣旨は生かされていると評価している。
さて、「貴方ならどちらの意見を選ぶ」といわれても、大多数の庶民には関係のない話。毎年5月に公示される「長者番付」を眺めながら、酒の肴にできるほうがいいとの制度存続派が多いのでは…。
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