財政再建に向けた増税路線が続くなかで、いよいよ消費税率の引上げの議論が本格化する。小泉首相は自らの任期中には税率を引き上げないと明言していることから、早ければ、任期終了後の2007年度頃に、引上げが実施される可能性もある。ニッセイ基礎研究所の篠原哲氏は、「視野に入る消費税率の引上げ」と題したコラムのなかで、消費税率引上げに関する論点と検討すべき課題を示している。
コラムによると、歳入面では税収の低迷が続き、歳出面でも社会保障関係費の拡大傾向が続くなかで、プライマリーバランスの黒字化を達成し財政再建を進めるためには、歳出削減に加えて、大規模な増税の実施は避けられない。しかし、少子高齢化の進展のなかでは、所得税などの直接税を増税したら、現役世代の負担は過大なものとなる。そこで、国民全員が“広く薄く“負担する消費税など間接税の増税が求められる。
となると、消費税率の引上げは不可避なのだが、検討課題も多い。コラムは、まず、消費性向の高い低所得者層ほど相対的に負担が重くなるという逆進性の問題を挙げている。このため、食料品などの税率を軽減する「軽減税率」の採用についての議論に代表されるように、税率を上げていくにつれ、相対的に過大となる低所得者層への緩和方法が、今後の大きな課題となる。
次に検討課題として挙げるのは、今後の社会保障制度のあり方との関わりである。年金などの財源に消費税を活用すると、個人の受給と負担の関係が不明確になってしまうという問題がある。このため、従来のように、税制と社会保障制度を別個のものとして考えるのではなく、両者を一体として捉えて、制度の枠組みを検討していくという視点も必要となるとしている。
さらには、当然、税率引上げが景気や消費動向に与える影響についても、大いに考慮すべき点である。以上のような検討課題を挙げたうえで、コラムは、「消費税率の引上げに向けては、プライマリーバランスの黒字化の達成時期という観点にとどまらず、社会保障制度と税制とを一体的に捉え、国民負担と給付のあり方に関して、十二分な議論や検証を行っていくことが必要」との言葉で締めている。
コラムの全文は↓
http://www.nli-research.co.jp/doc/eco0505b.pdf