所得税の諸控除の見直しが本格化する。政府税制調査会が議論に着手した個人所得課税の抜本的見直しのなかで、所得税の諸控除は、給与所得控除の縮減とともに、扶養者控除や退職所得控除の縮小が柱となる。家族・世帯構成や雇用形態の変化に応じた見直しを進めることで、課税最低限を引き上げ、「所得税課税の本来の機能回復」という目標を実現する思惑がある。
わが国の所得課税は個人単位でありながら、家族や世帯の面倒をみるという前提があるが、近年の家族構成は「専業主婦のいる世帯」から「共稼ぎ世帯」へと大きく変化している。そこで、扶養控除を見直し、子育て支援や少子化対策といった意味では、扶養控除を税額控除化した児童控除といった形での優遇税制が検討課題となる。所得控除から税額控除へという切り替えは、低所得者層への配慮でもある。
所得控除というのは所得水準に応じた税負担が高額所得者ほど有利だが、税額控除は、税金算出後に、高所得・低所得にかかわらず一定額を控除するから、いわば低額所得者のほうが相対的に手厚く優遇される。一方で、所得控除を縮減すれば、課税最低限が引き下げられ、課税ベースが広がる。今後は、所得控除はできるだけ縮小し、税の優遇は住宅ローン控除のような対象を明確にした税額控除となりそうだ。
退職金控除については、勤続年数20年を超えると控除が増え、さらに2分の1課税と優遇される。しかし、近年は終身雇用制の崩壊などで退職金制度が見直され、パートの急増など雇用形態の多様化もあって、退職金控除の意義が問われつつある。外資系の企業では、2分の1課税を乱用して、短期間に給与ではなく退職金として支払って節税しようとする動きがあるとの指摘もある。退職所得の制度、退職金控除自体が見直される方向にある。