ガソリン税などの暫定税率の存廃をめぐり与野党が厳しく対立している。3月末に期限切れとなる可能性も強まっているが、意外と行われていないのは、暫定税率廃止についての実証的な政策議論だ。第一生命経済研究所が発表した「暫定税率廃止のマクロインパクト」と題した分析レポート(永濱利廣氏)によると、暫定税率廃止による世帯平均の負担減は3.2万円との試算だが、財政再建などマクロ的な影響の議論も必要としている。
レポートによると、暫定税率を廃止した場合、これらの減税効果を通じて08年度の家計と企業の税負担をそれぞれ▲1.6兆円、▲1.1兆円程度軽減する。世帯あたりに換算すれば、平均的な負担減は▲3.2万円に達する。特に、北陸や東海、四国といったガソリン支出が高い地域では減税額が大きく、負担減は▲4万円を超えると試算。しかし、暫定税率の廃止は、一方で公共事業の減少額次第でわが国経済を停滞させる可能性がある。
レポートは、暫定税率廃止がマクロ経済に及ぼす影響を試算。より現実的な道路関連事業の減少が半分にとどまったケースの場合、実質GDPを08年度に▲0.1兆円押し下げた後、09年度に0.9兆円、10年度に1.5兆円押し上げる。一方、暫定税率廃止に伴う税収減や法人の所得税、消費税の自然増収効果など事後的な財政収支に及ぼす影響は、今後3年間でそれぞれ▲1.6兆円、▲1.4兆円、▲1.2兆円の赤字拡大要因となると試算する。
こうしてみると、暫定税率の廃止は財政赤字の拡大要因となるが、民間部門からの自然増収の効果で直接的な税収減少額ほどは財政赤字を悪化させないことになる。暫定税率廃止は、中長期的な経済活性化策として検討に値する効果がある。しかし、わが国が深刻な財政赤字や環境問題にさらされていることを勘案すれば、暫定税率を維持して道路特定財源を全額一般財源化することも検討に値すると指摘する。
レポートは、暫定税率存廃の是非を国民に十分に納得させるには、実証的な政策議論が不可欠といえることから、各党は、道路特定財源をめぐる議論を政争の具にするのではなく、定量的な影響分析についても議論し、国民に審判を問うべきだと主張している。もっともな主張だ。現在の与野党の攻防が、大局的な観点を忘れた単なる政治の主導権争いとなれば、国民の不安は増すばかりだ。